2018年度、インスペクションの活用促進に向けて宅地建物取引業法が改正されました。
中古住宅の取り引きの際、媒介契約の締結時に「建物状況調査(インスペクション)を実施する者のあっせんに関する事項」を記載した書面を作成し、記名押印して依頼者に交付することが義務化されたのです。
このような改正が行われたのは、空き家問題が深刻化する中、中古住宅の流通やリフォーム市場の活性化を促す狙いがあってのこと。
実際、中古住宅の構造や性能に不安を抱いている人は多く、その不安材料をクリアしていくことが日本の中古住宅市場における課題とも言えるでしょう。
日本での中古住宅の流通シェアが13.5%であるのに対し、アメリカでの中古住宅の流通シェアはなんと90.3%。
アメリカでは、その内の半数から8割の中古住宅購入者がホームインスペクションを利用していると言われています。
今回の法改正においてはあくまでも、こういった制度があるということを買主に伝え、希望があればあっせんする程度の試みであり、日本でインスペクションが普及するにはまだ少し時間がかかりそうです。
実は、インスペクション(=ホームインスペクション)とは本来、『建物状況調査』を差す言葉ではありませんでした。
もっと広範囲な意味での「住宅診断」全般を指す言葉として使われてきたのです。
民間事業者によって実施されている従来のインスペクション・サービスは、中古住宅購入時に限らず、新築住宅の入居時やリフォームの際にも広く利用されています。
そのホームインスペクション(住宅診断)という大枠の中に、宅建業法で規定される『建物状況調査』が含まれているのです。
『建物状況調査』だけではありません。
既存住宅売買瑕疵保険や住宅性能評価における現況検査、フラット35に係る適合証明業務、建築確認の検査業務等もすべて、広範囲でのインスペクションに含まれます。
そう考えると、今回の宅建業法改正において、『建物状況調査』という文言の後ろに(インスペクション)と付記されているのは、なんだか「ややこしいな」という印象を受けますね。
それだけ、インスペクションの普及活動に力が入っているということでしょうか。
インスペクションと言えば、平成25年。国土交通省において『既存住宅インスペクション・ガイドライン』が策定されています。
中古住宅のインスペクションに対する、消費者等の信頼の確保と円滑な普及を図ることを目的としたもので、既存住宅売買瑕疵保険における現況検査はもちろん、中古住宅に関わる検査業務はすべてこのガイドラインに則して実施されています。
その既存住宅売買瑕疵保険における現況検査の流れを汲みつつ、更に精度の向上を目指したのが今回の『建物状況調査』。
既存住宅売買瑕疵保険の検査員は「既存住宅現況検査技術者」の有資格者であることが必須で、その「既存住宅現況検査技術者」講習を受講できるのは、建築士又は施工管理技士の資格所持者に限られていました。
一方で、宅建業法の改正による『建物状況調査』を実施することができるのは、建築士の資格を持った「既存住宅状況調査技術者」とされています。
施工管理技士も受講対象に含まれていた「既存住宅現況検査技術者」に対し、今回「既存住宅状況調査技術者」の受講対象は建築士のみ。
こういったことからも、国がインスペクションの認知への取り組みだけでなく、『建物状況調査』における調査精度の向上やインスペクションに対する信頼性の向上を図ろうとしていることが、伺えますね。